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【生命科学系院卒が解説】コロナワクチンが細胞内で逆転写されるという論文

論文解説
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2022年2月25日、国際ジャーナルに『Intracellular Reverse Transcription of Pfizer BioNTech COVID-19 mRNA Vaccine BNT162b2 In Vitro in Human Liver Cell Line(ヒト肝臓細胞株において実験室内でファイザー・ビオンテック製COVID-19 mRNAワクチンBNT162b2が細胞内で逆転写される』という論文がスウェーデンの研究グループから発表されました(https://doi.org/10.3390/cimb44030073)。

今回は、この論文の内容を解説し、僕なりの解釈について書いていきます。

ところで僕は、生命科学系の大学院 博士後期課程まで進み、在学中は日本学術振興会特別研究員(DC1)として研究をしていました。国際ジャーナルへの論文発表、国際学会での研究発表の経験もあります。また、現職でも生命科学系の大学で研究現場に身をおいています。

論文のざっくり要約

2020年3月11日、WHOがSARS-CoV-2によるCOVID-19の世界的なパンデミックを宣言し、今日まで世界中で多くの感染者と死者が出ています。世界的な大流行を受けて、COVID-19に対するさまざまなワクチンの開発が進められてきました。その中で世界的に使われているワクチンの一つが、ファイザー社とビオンテック社製のmRNAワクチンBNT162b2(以降、コロナワクチン)です。このコロナワクチンは、コロナウイルス表面のスパイクタンパク質をコードするRNAワクチンで、現実にこれまで高い効果を発揮しています。短期的には高い効果があることが臨床試験・実際の現場での使用により分かっているものの、長期的な安全性やウイルスに対する効果については分かっていないというのも事実です。ワクチンの影響を知るために、臨床的な観察のみならず、細胞生物学的・分子生物学的な細かな解析が求められています。また、最近の研究から、ヒトの細胞内において、SARS-CoV-2 RNAが逆転写されてゲノムDNAに取り込まれる可能性があることが示されています。この事実から、コロナワクチンも逆転写・ゲノムDNAへの取り込みが起こるのではないかという疑問が生じます。なぜなら、コロナワクチンはSARS-CoV-2 RNAの一部であるからです。マウスおよびラットを用いた実験においてコロナワクチンは、筋肉注射してから8〜48時間後、接種部位および肝臓に主に分布することが明らかにされています。また、コロナワクチンを接種された動物において、肝臓への一時的な影響も観察されています。そこで本論文において筆者らは、コロナワクチンのヒト肝臓細胞株HuH-7への影響を、培養皿上で調べています。

HuH-7にコロナワクチンを曝露させると、コロナワクチンが細胞内に取り込まれていることが確認でき、さらにLINE-1という遺伝子の発現量が変化していることがわかりました。LINE-1は、元々ヒト細胞が持っている逆転写酵素活性をもつ遺伝子です。そして、コロナワクチンを曝露させたHuH-7では、LINE-1遺伝子から作られるタンパク質の量・核への分布が増加していました。さらに、コロナワクチンを曝露させたHuH-7のゲノムDNAを精製したものから、mRNAであるはずのコロナワクチンの配列を確認することができました。これらの結果から、ヒト肝臓細胞株HuH-7はコロナワクチンを速やかに取り込み、逆転写酵素LINE-1の発現と細胞内での分布の変化を引き起こし、細胞内でmRNAからDNAへの逆転写が起こっていることがわかりました。これらは、コロナワクチンの曝露から6時間という短い時間で起こります。

今回の研究では、HuH-7という肝臓の癌腫由来の細胞株を使ったモデルで、コロナワクチンが細胞内で逆転写されうることを明らかにしました。しかしながら、現時点では逆転写されたDNAが核内のゲノムDNAに取り込まれているのかは、明らかにできていません。ゲノムDNAの配列を読むといった直接的な手法で、今後検証していく必要があります。また、癌細胞は細胞分裂が盛んであるため、DNAの複製が頻繁に起こっており、ゲノムDNAに外来配列が取り込まれやすい条件ではあります。一方で、通常の正常細胞では細胞分裂はあまり起こっていません。骨髄や上皮の基底層といった、体内において活発に細胞分裂を行なっている組織はありますが、これらの場所・条件において、コロナワクチンの配列がゲノムDNAに取り込まれるのかも確認する必要があります。

この研究は、ヒト肝臓細胞株におけるコロナワクチンの影響を示した初めての研究です。筆者らは、コロナワクチンが速やかに細胞に取り込まれ、細胞内でRNAからDNAに逆転写されるということを、明らかにしました。

用語の説明

逆転写

元来、分子生物学において遺伝情報は、まずDNAからRNAに転写され、次いでタンパク質へと翻訳されるという順で、一方向に伝達されると考えられてきました。この概念(セントラルドグマ)に従えば、DNAの配列はDNAそれ自体に何かしらが起こらなければ、書き換えられないことになります。ところが1970年代、レトロウイルスと呼ばれるRNAウイルスから、ウイルスのゲノムRNAの配列をDNA分子に変換する酵素が見つかり、宿主のゲノムDNAに取り込ませる機構が見つかりました。セントラルドグマである DNA から RNA への流れとは逆に、これらは RNA をテンプレートとして DNA 分子へと転写(逆転写)することから、逆転写酵素と呼ばれています。これ以降の研究から、逆転写酵素はウイルス、細菌、動物、植物を含む多くの生命体で同定されてきました。

HuH-7

画像引用:JCRB細胞バンク『JCRB0403 HuH-7

高分化型ヒト肝癌由来細胞株“HuH-7”は,1982年にCancer Researchに樹立が報告されました。57歳日本人男性の分化型肝細胞癌患者から、手術によって切除された肝癌部位から上皮様細胞のみ単離し、樹立されました。樹立以降多くの分野の研究に使用され、PubMed(生命科学系の論文等の検索サイト)に掲載された”HuH-7″もしくは”Huh7″が利用されている論文は、2022年3月現在で約6,800件にも上ります。樹立の報告から30年で、肝癌由来細胞株としてよく使われる細胞株の一つとなっています。

LINE-1

LINEは”Long interspersed nuclear element(長鎖散在反復配列)”の略であり、RNA型トランスポゾン(レトロトランスポゾン)です。トランスポゾンとは、ゲノム上の位置を転移(transposition)することができる塩基配列で、転移によってゲノムのDNA配列が突然変異するが生じることがあります。これらの転移・突然変異によって多様性が増し。生物の進化が進んできたと考えられています。LINEはヒトゲノム中に50万箇所ほど存在し、これはヒトゲノム全体の約21%にあたります。LINEのうち、LINE-1はヒトゲノムにおいても未だ活動的な要素で、ヒトゲノム全体の約17%を占めます。LINE-1にはタンパク質に翻訳される領域が2箇所あり(ORF1・ORF2)、これらの領域から翻訳された2種類のタンパク質によって、LINE-1は転移します。このうちORF2が逆転写酵素活性をもっています。また、LINE-1は多くのがんにおいて発現上昇、活性上昇が報告されています。

この論文がこれまでの研究と比べてすごいところ

この論文の一番の推しポイントは、コロナワクチンが細胞内でRNAからDNAに逆転写されているという事実を、(筆者・僕の知る限り)世界で初めて実験的に証明したことです。実は、コロナウイルスのゲノムRNA自体は、細胞内でRNAからDNAに逆転写されることが証明されていました。したがって、コロナウイルスのゲノムRNAの配列の一部であるコロナワクチンが逆転写されるであろうことは、想像できるでしょう。しかし、それを実験的に証明しよう、国際ジャーナルの編集者をはじめとした他の研究者が納得するデータを出すこと、そしてこれらを世界で初めて行うことは、容易なことではありません。ましてや今世界中が注目し、盛んに研究が行われているCOVID-19に関することなのですから。

筆者らの主張の有効性をどうやって検証したのか

筆者らはまず、HuH-7細胞を培養している培地にコロナワクチンを添加したときに、細胞内にコロナワクチンが取り込まれていることを、細胞内のコロナワクチンの塩基配列の一部を検出・定量することで、確認しました。その条件下で、LINE-1遺伝子の発現量が変化していることを、LINE-1遺伝子の配列の一部を検出・定量することで確認しました。さらに、LINE-1から翻訳されるタンパク質ORF1を細胞内で特異的に染色することで、LINE-1が逆転写酵素として働く核内で増加していることを確認しました。最後に、コロナワクチンを添加したHuH-7細胞からDNAを精製し、コロナワクチンの塩基配列の一部を検出することで、細胞内に取り込まれたコロナワクチンRNAがDNAに逆転写されていることを証明しました。

この論文の問題点

確かに、コロナワクチンのRNAが細胞内でDNAへ逆転写されうることは、証明されています。しかしながらこの論文だけでは、コロナワクチンを接種した人体への長期的な影響を議論するには不十分であると思います。それは、この論文のデータに厚みがなく、下記4点の問題点が考えられるためです。

  1. 逆転写されているがゲノムDNAに取り込まれているとは限らない
  2. LINE-1が高発現していると考えられる癌細胞での結果である
  3. 逆転写されたDNAからコロナのスパイクタンパク質が作られるか不明である
  4. 生体内で起こりうるか検証されていない

これらの問題点について、解説していきます。

逆転写されているがゲノムDNAに取り込まれているとは限らない

この論文でのDNAの精製は、まず細胞を溶解して、溶解液中のタンパク質分子とRNA分子を分解するという方法で行われています。細胞内に存在するDNAには、核内にある遺伝子の情報としてのゲノムDNA、ミトコンドリアがもつミトコンドリアDNA、ウイルスや細菌などが細胞内に入り込むことで取り込まれたその他のDNAの、3種類があります。細胞分裂によって娘細胞に受け継がれていくDNAは、ゲノムDNAとミトコンドリアDNAの2種類です。また、特にウイルスや細菌由来の外来DNAは、細胞の防御機構により積極的に分解除去されます。したがって、単に逆転写されただけのコロナワクチン由来のDNAは、その細胞にだけ一時的に影響を与えるにとどまります。

この問題点を解決するためには、細胞内に存在するDNA分子の塩基配列を全て決定し、ゲノムDNA中にコロナワクチンの配列が取り込まれていることを確認する必要があります。ちなみにこの解析、安くて数万円程度のコスト、早くて数日の解析期間で明らかにすることができます。この解析をするための機器が数千万円以上するんですけどね。

LINE-1が高発現していると考えられる癌細胞での結果である

先述の通り、多くのがんにおいてLINE-1の発現上昇、活性上昇が報告されています。つまり、今回使用した高分化型ヒト肝癌由来細胞株HuH-7細胞を使った実験系では、そもそも細胞内での逆転写が起こりやすい条件であったということです。コロナワクチン由来のRNAが、がんではない正常細胞内で逆転写されうるかは検証されていません。

この問題点を解決するためには、正常組織由来の細胞を使った実験を行う必要があります。しかしながら、正常組織由来の細胞は増殖しづらく、扱いが難しいため、実験の難易度は格段に上がるでしょう。

逆転写されたDNAからコロナのスパイクタンパク質が作られるか不明である

この論文では、逆転写されたDNAを検出するにとどまっており、逆転写されたDNAが機能的であるか、つまりDNAからRNAに転写されてさらにタンパク質へ翻訳されるかは示されていません。コロナワクチンのRNA全長が逆転写されているかは検証されていませんし、コロナワクチンがコードするスパイクタンパク質も確認されていません。

僕自身も、細胞のゲノムDNAに外来遺伝子を取り込ませ、目的とするタンパク質を発現し続ける細胞を作製してきた経験があります。使用していたのは、ゲノムが不安定で変異が生じやすいがん細胞でした。しかしながら、まずゲノムDNAへの取り込みに成功する確率がそんなに高くありません。さらに、ゲノムDNAに取り込まれているであろう細胞でも、全ての細胞において目的のタンパク質が発現しているとは限らないといった状況でした。況んや正常細胞では、といった印象です。

この問題点を解決するためには、コロナワクチンに曝露させた細胞を数週間以上の長期にわたって培養し、コロナワクチンがコードするスパイクタンパク質が検出されるか確認する必要があるでしょう。あくまでも個人的な印象ではありますが、ゲノムが不安定ながん細胞を使用したとしても、検出することができるかどうか…。

生体内で起こりうるか検証されていない

この論文でワクチン接種による人体への影響を議論するに不十分であると考える最大の問題点は、あくまでも培養皿上で起こっている現象であって、生体内で起こりうるか検証されていないことです。培養皿上では、細胞内でコロナワクチンのRNAがDNA分子へと逆転写され、ゲノムDNAへ取り込まれて娘細胞へ持続的に受け継がれる状況になって、そもそもヒトが持たないウイルスのスパイクタンパク質を発現し続ける細胞ができると仮定しましょう。しかしながら、生体内においては免疫機構が存在します。本来ヒトが持たないタンパク質を発現する細胞は異物とみなされ、排除される仕組みになっています。ウイルスや細菌に感染して病気になったとしても、多くの場合は一定期間たつと元通りに戻るのは、免疫機構が感染した細胞を排除するためです。

生体内でコロナワクチンの影響が残り続けるためには、コロナワクチン接種により免疫機構が破壊される必要があるでしょう。コロナワクチンの元となったmRNAワクチンの研究は30年近く行われており、その期間でmRNAワクチンが免疫機構を破壊するようなものであれば実用化はされていないでしょう。そして、コロナワクチンがコードするのは、本来ウイルスが細胞表面に結合するためのタンパク質です。細胞表面に結合するだけのタンパク質に免疫機構を破壊する能力があるのか、甚だ疑問です。

まとめ

ここまで6000字以上書いてきましたが、結論をまとめます。僕個人としては、この論文が発表されたからといって、コロナワクチン接種を忌避すべきものにはしません。世界的に猛威を奮っているコロナウイルスへの感染リスク・重症化リスクの低減というメリットに対し、短期的な副反応と長期的な問題が起こる可能性といったデメリットは小さいと考えるためです。

なお、この記事は、積極的にコロナワクチン接種を推奨するものではありませんし、ましてや強制するものでもありません。あくまでも最終的な判断はご自身で行なってください。

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